よく眠った。
なのに、疲れがしつこい脂汚れや眼鏡の曇りのようにスッキリとれない。
12ヶ月というシステムは有りがたい。
気分がリセットできる。
月の始めの最初の日、一日はうまくまとめたいと思う。
すぐれた先発投手のようにクオリティスタートしたい。
体調がイマイチの時は欲張らず、打たせてアウトをとり、失点は最小限に。
駅伝とYou-Tubeはほどほどに。
村上春樹のデビュー作「風の歌を聴け」にこんな描写がある。
酔っ払っていた主人公の僕が鼠と出会い、フィアットに乗ったまま猿の檻に突っこむ。
そして、自動販売機で缶ビールを半ダース買って、海へ行ってすべて飲み干す。
そのままダッフルコートにくるまって眠ってしまい朝を迎える。
目が覚めた時、一種異様なばかりの生命力が僕の体中にみなぎっていた。
不思議な気分だった。
「100㎞だって走れる。」と僕は鼠に言った。
「俺もさ。」と鼠は言った。 (村上春樹「風の歌を聴け」)
この描写が妙に記憶に残っている。
確かに二十代くらいまでは僕にもこれと同じような感覚になることもあった。
眠らずとも、多少身体に負担がかかっても、有り余るほどの生命力を感じられた朝があった。
前夜にかなり酒を飲んで、そのまま着替えもせずに眠ってしまう。
起きたら「あれ?」って感じ。
過ぎ去りし遠い日の奇跡です。
そんなわけで疲れを背負ったまま目覚めた。
トイレでレベッカ・ブラウン「体の贈り物」の連作の一編だけを読む。
主人公はホームケア・ワーカーの女性、何人かのH I V患者のターミナルケアを担当している。
今日、彼女が訪ねたのは男性のカーロスの自宅。「肌の贈り物」という一編。
短い文章の最後の3行がしみる。
シーツを引っ張り上げて体に掛けようとしたところで、彼が私を制した。
「まだ掛けないで」と彼は言った。
「空気がすごく気持ちいい。空気を肌に感じていたいんだ。」
当たり前のことが出来なくなることを静かに受け入れる患者たちと主人公。
静かな晩秋に思うこと多し。
ぬるい朝風呂に入る。
ヒロが昨日の夜に作ったりんごのパウンドケーキで珈琲を飲む。
コーヒーを飲みながら3日前の日記を書く。
昼前に少し走る。
疲れていても走ると気持ちがフレッシュになる。
いつのまにか夙川沿い桜の紅葉が進んでいる。
香櫨園浜へ出る。
前述の「風の歌を聴け」で僕と鼠がダッフルコートのまま眠ってしまった浜だ。(おそらく)
砂州にユリカモメらしき鳥影が見える。
ズームすると違った。
大きくて灰色のカモメ類、おそらくウミネコだ。
「香櫨園浜 鳥だより」を見てもまだユリカモメは来ていない。
今年は遅れている。
あるいはこの浜が見限られたか?
回生病院の前の堤防にいつのまにか鉄柵(手すり)が出来ていた。
気がつかなかった。
昼食を食べて部屋の扇風機を片付ける。
カバーを外すのに手間取る。
羽根とカバーの埃を落とし、拭き掃除をして仕舞う。
ついでにストーブを出した。
季節の曲がり角だ。
少しWEB作業をしているとヒロがレトルトのフカヒレ雑炊を作る。
寒い午後に熱々の雑炊がうれしい。
午後5時過ぎ、デスク下で仮眠する。
すぐにエネルギーが切れて充電しても満タンにならない。
iPhoneみたいにバッテリーを交換できればいいのだがそれも無理な話。
小一時間、横になる。
本棚からコミック「大東京 ビンボー生活マニュアル」を出して読始めるとすぐに眠ってしまった。
7時前に起きて、風呂に入りにグンゼスポーツへ行く。
夕食は羽根つき餃子とミニ焼きめし。
大阪都構想の住民投票は否決となる。
NHKスペシャル「筒美京平からの贈りもの 天才作曲家の素顔」と「麒麟が来る」を観る。
筒美京平の名を最初に意識したのは南沙織の17才だったか。
かなりの高齢になるまで曲を作り続けていた筒美京平の肉声が流れる。
「もっと曲を頼んで欲しい。プレッシャーの中で名曲は生まれる。」
ウイスキーのハイボールを1杯、お湯割りを2杯飲んでしまう。
新しい月の最初の一日はクオリティスタートできただろうか。
就寝は午前2時、延長戦にもつれこんでしまった。