ぷよねこ減量日記 since 2016

結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがいのないその時間 である。 (星野道夫)

2021/07/05 Mon. 踊り場の日々のトラッドな一日

以前、池澤夏樹が書いていた。

豊かな西欧では人生のステージごとに踊り場みたいな期間があると。

高校から大学、大学から就職というステージで1年ほど旅をしたりして経験を積む。

それを Gap Year というらしい。

最近、他の呼び方をすると何かで読んだけど(例によって)忘れてしまった。

ことし2021年を三ヶ月ごとに4つに分けた。

PHASE1が1月から3月、2が4月から6月。

やり残すことがないように、あるいはやり残したら今回の人生はそこまでと割切る。

余命3ヶ月というマインドセット。

(60代はいつ死んでもそれほど驚かれない)

心のすわりは悪くない。

6月30日で今年2回目の人生が終わった。

7月に入った。

今は Gap Year 的な時間。

何もタスクは課さない。

自由に過ごす。

だからといって、長い旅に出るとか、ロングトレールを歩くとかは季節的にも時節柄も出来ない。

出来ないことはないけど楽しくないだろう。

仕事も僅かながらもある。

日々、チェックマークを入れて行くTODOもほどよくある。

たとえば、▢ 図書館へ行く とか、▢ 眼科の予約をとる とか。

でも、概ね何かをやるべき時間からは解放してフリーな期間と決めた。

前回のPHASE 1 終了時はなんとなく4月からダラダラと過ごしたけれど、

今回は踊り場を自覚して気楽に過ごしている。

次のPHASE 3 は 2 と同じ80日間、7月13日スタートと決めた。

それまで残り8日間  いつにも増してゆるーく過ごそう。

逆になにか枷(かせ)がない分、解放感があって、活動的になれそう。

無理に何かをしなくてもいいし、してもいい。

もしかしてこの期間を得るために生きていると思えるくらい。

枷なんてもともとないだろ? と言われたら…ごもっともであります。(笑)

 

とは言いつつ、7月に入って何かしらやっている。

メディカルなイベント、2日に胃と大腸の内視鏡検査、4日にワクチン接種。

(まだ腕が筋肉痛)、きょうは眼をチェックしようと眼科に予約電話した。

1日は仕事だったし、2日も、3日も夜遅めから動画編集や記事アップもした。

やるべきことを決めない方が意外にもいろいろと出来てたりする。

 

きょうはざっくりと予定を決めた。

夕方はビールと焼鳥にしよう。

その前に温泉銭湯でさっぱりしよう。

ビールを飲んだら映画を観よう。

ビールと焼鳥が起点となって両サイドをうまく使う。

 

3時過ぎ、山手幹線の双葉温泉へ行く。

おいおい、そこそこ混んでるぜ。

閑散とした昼下がりのお風呂場をイメージしたのに。

おそらくワクチンを打ち終えた高齢者たちがゆったり湯につかる。

会話に聞き耳をたてる。

「きょうは早いな」「いやあもう小一時間ほど経っとるわ」常連らしい。

露天岩風呂に半身つかり梅雨空を見上げる。

脱衣場のテレビは大相撲、名古屋場所が流れている。

小兵力士が土俵際で翻る。

「むかし土俵際の魔術師いう相撲取りがおったなあ」

藤の川とか、栃赤城とか、舞の海とかの名前が行き交う。

「ボクシングにもロープ際の魔術師いうボクサーがおったなあ」

「おったおった」

「ジョー・メデルいう選手でな。わざわざロープを背にして誘うんや」

なかなかのスポーツ通らしい。

ジョー・メデル 無冠の帝王という呼び名は彼が最初だったのでは?

団塊の世代前後はファイティング原田やジョー・メデルの名前は男子の教養みたいなものでした。

昼下がりの脱衣場、大相撲中継の至福。

 

温泉銭湯につかりトラッドな気分が増し増し。

トラッドといっても気取ったものではない。

“昔から馴染んでいる” というくらいの意。

飲み屋でいえば、“ちょくちょく行く” とか “20年来変わらない” とかいった感じ。

本日の行動の軸として思いついた店はかれこれ30年以上前からちょくちょく行く店。

ちょくちょくと言っても甲子園に住んでた頃で、今は年イチくらいのペース。

甲子園口の焼鳥屋「たくみ」、5時の開店を駅前のベンチで待って口開けの客になる。

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30年以上前に来た頃からまったく変わらない。

僕がまだ20代の頃は活気あふれる店でした。

無口で頑固そうな先代のおやじさんはもういない。

当時、まだ焼かせてもらえなかった息子さん(おそらく今は五十代)が焼いている。

店内は変わらず、昭和感漂う暗めの照明、使い古された長いカウンター。

かといって重厚な老舗感はなく至って庶民的、リニューアルなしの年代物。

カウンターにアクリル板がなければ、そのまま刑事ドラマのセットに使えそう。

瓶のキリンを手酌で飲む。

風呂上がり、旨い。

最初のオーダーはささみ(浅焼 塩)、つくね(塩)、うずらの卵(塩)。

小皿に2本ずつ。

大瓶はまだ三分の一ほどある。

追加でたまひも(たれ)、皮(たれ)の2品。

ビールがなくなった頃、女性客がひとり入ってきた。

入れ替わるようにお勘定してもらう。

2200円、決して安くはない。

でも静かな独酌にこころ満たされる。

 

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甲子園口の駅前も変わった、変わらない部分を少し残して

6時前、まだ明るい。

JRで尼崎に移動。

そろそろ通勤客で駅のホームは混み始める。

尼崎で下車、MOVIXあまがさきで6時半上映開始の「夏への扉」を観る。

なんと、MOVIXあまがさきは僕ひとりのために上映してくれた。

ロバート・A・ハインラインの古典的SF小説の初映画化を一人で見終える。

「他の客は帰してくれ」と映画館の支配人に求めたわけではない。

なんという贅沢。

*映画の感想は別の日記で

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決して誉められた作品ではなかったが…概ね満足

 

踊り場のような日々のトラッドな一日が終わる。

西宮駅から自宅までおよそ2キロ。

ロードバイクで走ると頬にあたる風が気持ちいい。

たとえ収入が途絶えようと、多少健康は失われようと、

贅沢は言わない。

このロードバイクの乗り心地だけは守りたいと思った。

癌に冒された川上宗薫が晩年に書いていた。

散歩さえ出来たら…と。

体ノドコモ痛クナクテ 

家ノ近所ヲ奥サント散歩スル

(中略)

ソノ散歩サエデキレバ 

モウ ソレ以上ノ 望ミハナカッタ

 

    (川上宗薫「死にたくない!」より)

生きてるだけで儲けもの。

もう多くは望まない。

これ以上のことはすべてオプションだと思えばいい。