「ソワレ」@MOVIXあまがさき
チケットは30分前に自販機で買った。
座席指定も特に気にするでなくいつもの少し後ろ目の端っこにした。
上映5分前に入ると82席のシートには誰もいなかった。
いずれ数人は来るだろうと思ったがブザーがなって予告編や映画泥棒が始まっても一人だった。
今までも特に塚口サンサン劇場では数人で見たという経験はあるが、これは初体験。
生まれて初めてのスクリーン独占の2時間弱が始まった。
誰か知らないおっさんやおばさんと二人っきりよりはいいか。
この映画を観たいと思ったのは主演の女優だった。
いわゆる女優が目当て。
Netflixで見た「37」という映画の後半に少しだけ出てくる女優さん。
車いすの主人公の双子の姉妹という設定で、彼女はタイの施設でボランティアとして働いていた。
芋生悠(いもおはるか)という女優。
今回は村上虹郎(「デストラクションベイビーズ」)とのダブル主演だ。
「燦燦 さんさん」の外山文治監督が、村上虹郎と芋生悠演じる若い男女の切ない逃避行を描いたドラマ。豊原功補、小泉今日子、外山監督らが立ち上げた映画制作会社・新世界合同会社の第1回プロデュース作品。俳優を目指して上京した翔太は、俳優では芽が出ずに今ではオレオレ詐欺に加担してなんとか食い扶持をつないでいる。ある夏、翔太は故郷の和歌山にある高齢者施設で演劇を教えることになり、その施設で働くタカラと出会う。数日後、祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太が目撃したのは、刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラの姿だった。とっさに止めに入る翔太、そして逃げ場のない現実に絶望してたたずむタカラ。翔太はタカラの手を取り、夏の街の中へと駆け出していく。
2020年製作/111分/PG12/日本 配給:東京テアトル
冒頭、東京でオレオレ詐欺の受け子をする村上虹郎。
本業は劇団員だが、どこか心ここにあらずで演劇に集中出来てない様子が稽古に見て取れる。
その劇団が和歌山の高齢者の施設に演劇指導のボランティアに行く。
虹郎演じる翔太はその町の出身のようだ。
芋生悠演じるタカラはその高齢者施設で働いている。
あとでわかったことだが二人は同じ高校出身だ。
二人の人物描写がしばらく描かれたあと、ある事件が起こり、二人の逃避行が始まる。
とにかく走る。
あてもなく走って逃げる。
いい映画だった。
切なくて切なくて。
映画そのものにはつっこみどころも多いし、脚本に粗もある。
完成度が高いという作品ではない。
芋生悠が素晴らしい。
主人公タカラ、不遇な境遇で育った彼女がリアルだった。
台詞はなくても表情と存在感。
演じるとはこういうことか、と21歳の女優にマンツーマンで教わった気がした。
(観客一人なのもので)
二人が、たぶん永遠の別れになるだろうというフェリー乗り場のシーンがある。
スローや長ゼリフや、もっとケレン味をきかせてもいいシーンだが、抑制されて、意外にもあっさり終わる。
ここで終わってもそれはそれでいい。
エピローグがある。
そうか、とわかる。
あの別れをクライマックスにしなかった。
切ない。
その後のエピローグで数年後の翔太の暮らしが描かれる。
ある仕掛けで高校時代に撮った自主映画に翔太が映される。
過去が再現される。
あのフェリー乗り場のタカラがオーバーラップする。
高校時代からタカラは翔太のことが…。
独りよがりの男目線かもしれない。
タカラにとってあの数日間の逃避行は生涯もっとも幸福な日々だった、と気がつく。
あからさまにそう思わせない芋生悠がいい。
タカラが笑ったのはもしかして最後のフェリーターミナルのときだけだったのかもしれない。
そう思うとあの台詞…も。
「わたしたち駆け落ちしてきたんです」とタカラが嘘をつく。
あ、と気がつき泣きそうになる。
舞台であり、ロケ地は和歌山の御坊。
紀州鉄道の乗り場で出てきてすぐにわかった。
紀州鉄道は御坊から西御坊、わずか5つの駅のあの短い路線しかない。
2年前、セルジオと青春18きっぷで湯浅と御坊へ行った。
あのとき終点の西御坊から歩いていった煙樹ヶ浜を二人が歩くシーンがあった。
和歌山市内もよかった。
和歌山の夜はどこか東南アジアの都市のような色彩で映されていた。
マニラとかハノイとか台北とかを舞台にした映画のよう。
題名のソワレは夜会、演劇の夜の公演を指す。
逃避行が深まるにつれ夜のシーンが増えていく。
真夜中の「娘道成寺」のふたり芝居。
紀州の道成寺は御坊のひとつ手前の駅にある。
南紀を舞台にした映画は多い。
血縁の深さと南洋を思わせるおおらかさが濃い。
意外と和歌山、紀北、紀中が舞台になってる映画は少ないように思う。
ダブル主演の村上虹郎くんと芋生悠さんの二人はもちろんメジャーじゃない。
観客が初老のおっさん一人というのはあまりに申し訳なかった出来の映画でした。
脇役の女優、母役の石橋けい、梅干し農家の江口のりこもよかった。
ポスターのビジュアルも素晴らしいです。
余談ですが…「ソワレ」という言葉を思えたのは演劇ではなく喫茶店の名前です。
京都の木屋町にある古い喫茶店に「フランソワ」と「ソワレ」がある。
青い照明の喫茶店、まだ営業してるだろうか。
以下は芋生悠について少し。
監督の外山文治について調べてみた。 プロフィール | 外山文治
長編は「ソワレ」くらいだけどamazonプライムで短編が3つ観られる。
「ソワレ」、3種類のフライヤーがありました。