湖北の温泉宿へ行く前に大津の美術館へ立ち寄る。
ヒロが NHK「日曜美術館」で紹介されていた企画展に行きたいとのことでつき合った。
「人間の才能 生みだすことと生きること」@滋賀県立美術館
アール・ブリュットというジャンルがある。
正確にはジャンルでもない。
美術のいかなるジャンルにも当てはまらない作品を便宜的にそう呼ぶらしい。
アール・ブリュット【art brut】
加工されていない芸術”という意味のフランス語「art brut」が語源で、フランス語の「brut」が「生のまま、自然のまま」という意味であることから、「生(き)の芸術」とも訳される。
専門的な美術教育を受けていない人が、湧き上がる衝動に従って自分のために制作するアート。アール・ブリュットの芸術家の多くは、精神的・知的障害を持つ人で、刑務所の受刑者などもいる。絵画や造形作品、民族芸術など、多岐にわたる分野の作品があります。日本のアール・ブリュットも世界で高い評価を得ている。
アウトサイダー・アートと英訳されることもある。
僕は一応、表現すること、伝えることを仕事にしている。
そもそも芸術家をめざしてた過去があるわけでもなく、仕事にしている時点で、
最大の目的はお金を稼ぐことで、次に評価されたいという欲求がくる。
突き詰めて考えたことはないが、おそらくそうだろうと思う。
美術界、アートの世界はどうなんだろう?
売れたい、儲けたい、評価されたい、賞が欲しい…は少なからずあるだろう。
今回の特別展「人間の才能 生みだすことと生きること」で展示されている作品は、
それらの欲から自由で、あらゆるキャリアからも、アカデミズムからも解放されている。
いや、解放されているというのは間違っていて、そもそも世界が違う。
描きたいから描く。
彫りたいから彫る。
作品という概念もなく、絵画や彫刻というジャンルもない。
ただ途方もないパワーで表現する。
今回の美術展で見たものに僕もヒロも圧倒された。
すべての作品が唯一無二、絶対のオリジナルで、模倣という概念すらない。
滋賀在住の鵜飼結一朗という青年が描いた《妖怪》は凄い!
17枚を連結させて全長14メートルで展示されている。
キュレーターの紹介に「圧巻のサイズで見られるのは多分この展覧会が最初で最後!?」とある。
怪物、妖怪、骸骨、怪獣、恐竜、悪魔、人間、幽霊、ドラえもん、アンパンマン…が
14メートルのカオスの中にひしめき合っている。
アニメ原画のようであり、鳥獣戯画のようであり、びじゅチューンにも似ているが、
ただ、その百鬼夜行は なんじゃこりゃ的 に とんでもなくエネルギッシュで魅力的。
養護施設で出会った陶芸にのめりこんで、こんな作品を作る人や…
ドローイングというのでしょうか。
ひたすら線を引くことで表現する人も…。
ヒロはこの岡崎莉望さんの絵が見たかったらしい。
岡崎さんは30代の女性で、会場で流れていた制作風景のビデオでは、
制作現場である自宅でBGMを母親に流してもらうシーンがあって、
「ヴィヴァルディばっか?やサイモン&ガーファンクルなかったっけ?」と言い、
「明日に架ける橋」を聴きながら、ひたすら線を引き続けていた。