天気予報は晴れ、午後から雲が出てどんよりする。
午前中はきのうの続き、TODOを決めて振り分ける作業。
計画マニアだからこういう作業をすると、それだけで満足する。
そういえば小説家の宮下奈緖さんも計画マニアだとエッセイに書いていた。
人生とは、何かを計画している時に起きてしまう別の出来事のこと
Life is what happens to you while you are making other plans.
(星野道夫の友人 シリア・ハンターの言葉より)
そうなんですよね。
人生は別件でつくられてゆく。
午前中に4キロ走る。
六甲山が新緑に染まる。
山がほほえむ季節になった。
午後イチで出る。
ロードバイクにいつものデイパックを背負う。
中には登山用のガスバーナーとメスティン(西洋飯ごう)が入っている。
尼崎で映画を観る。
朝のジョギング中に聴いたラジオクラウドで知った映画。
ボクシングを30年やっていた監督が作ったリアルなボクシング映画。
こんなエピソードを聞いて背中を押された。
ラッパー宇多丸氏の知り合い某が映画「ロッキー」が好きすぎて、彼女を誘った。
クライマックス、映画館で号泣する某に彼女が言った。
「わたしのためを思うならボクシングなんかしないで普通に働いて」
自分がやりたいだけだろ、勝手にわたしを背負わんといて、と。
かくのごとくボクシングは人生そのものであるという思いこみがある。
ただ好きでやってるだけじゃねえか、では映画にならない。
妻、子、両親、家族、友人、そして宿命のライバルがいて、それが人生。
いろんなものを背負ってこそ相手を血みどろになるまで殴ることが出来る。
たいていのボクシング映画の主人公はボクシング以外のものを背負って戦う。
ボクシング中継でも家族がリングサイドにいるという図が定番だ。
そうじゃないんだよな、というのが監督の思いだったという。
“ただ好きになって…いつのまにか、ずっと続けている”というボクサーたちの物語。
限定2本場映画鑑賞、4月の一本は 衝動的に「Blue/ブルー」と決めた。
「Blue/ブルー」@MOVIXあまがさき 13時55分〜 観客3人
くそったれな青春というポスターのメインコピーはちょっと違う気がした。
「それでも人生は続いてゆく」と題された予告編の方が映画を表していると思った。
ヒーローは強くなければいけない。迫りくる脅威を圧倒的な力ではねのけ、常に輝かしい勝利を観客に見せつける。強靭さと、その先にある勝利こそが、魅力的な主人公を形作るのに不可欠な要素だと考えられてきた。
しかし、映画「BLUE ブルー」の主人公・瓜田は、作劇上のお約束とは無縁のように思える。なぜならば瓜田は、とてつもなく“弱い”プロボクサーだからだ。
ボクシングを愛し、長い年月を捧げてきたが、瓜田はまったく試合で勝つことができない。噛ませ犬にすらなりきれない。実力とその優しさゆえか、一回り近く年が離れた後輩にも見下されながらも、瓜田はボクシングに打ち込み続ける――。
“勝ち負け”では語れない人生。そんなキャラクターに、稀代の実力俳優・松山ケンイチが共鳴した。「犬猿」「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督とタッグを組み、俳優人生をかけた熱演をフィルムに焼き付けたのだ。
2021年製作/107分/G/日本 配給:ファントム・フィルム
タイトルのブルーは青コーナーのブルー。
挑戦者側のコーナーを指す。
映画はちょっと群像劇のような構成、僕は当然のように、負け続けるボクサー瓜田と
不純な動機からボクシングが好きになっていく楢崎(柄本時生)に感情移入する。
試合も、ジムの練習風景も、抑制されているという表現が正しいのかわからないけど、
ドロドロとした感情のマグマが爆発するようなものからは距離を置いている。
ああいうドラマチックな情念はリアルなボクシングの世界にはないのかもしれないな。
主人公にも、才能あるボクサー小川にも実際のモデルがいるそうだ。
監督と松山ケンイチのインタビュー記事の冒頭にこんな一文があった。
自分がのめりこめる「好き」を見つけられることは、喜びである一方、苦悩の始まりでもあります。「好き」だからこそ、突き詰めたくなる、もっと近づきたくなる。しかし、その「熱量」が、逆に自分を「好き」から遠ざけてしまうことが往往にしてあるからです。
𠮷田 ガッと取り組むタイプはね、やめる人多いんだよ、ジムでも。
松山 難しいですよね…。
𠮷田 すごい熱量でボクシングやってたのに、2日で来なくなったとか。ダラっとやって「やめます」って言ってる人ほど、「お前ずっといるな!」みたいな(笑)。ハードに取り組んでしまうと、緊張の糸がプツッて切れた時に「そこで終わり」になってしまうことがあるね。
思えば、2006年にBRAVOという番組でプロデビュー戦に挑むボクサー特集した。
「はじめてのリング」と題された10分ほどの企画だった。
初めて登るリングに、冷静に怯えるボクサー、カラ元気で奮えるボクサー、
アマチュア時代は連戦連勝、勝って当然と自信満々なボクサー3人が主人公だった。
奇しくも…3人とも負けた。
「Blue/ブルー」を観ながら「はじめてのリング」のボクサーたちを思い出していた。
プロボクサーのデビュー戦のミニドキュメント。
人間を描くのか、ボクシングを描くのか、中途半端になってしまった。
何となくクリスタル(古い!死語!)ではないが、何となくドキュメント風?取材、編集して感じたこと。
ボクサーたちは好感が持てる。
そして、それぞれに尊敬すべき存在だったということ。
言い古された感はあるが、
「彼は自分のリスクを賭け戦っている at his own risk 」
それだけで尊敬に値する、と思う。
他人に仕事をさせておいて結果がよくなければ文句を言う、
そんな人間では決してない。
寡黙だけれど、豊かではないけれど、見栄えはしないけれど、
いろいろなものを犠牲に出来る“何か”をボクシングに見い出したのだ。
ナレーションでそれを語れば押しつけがましいだろうな、
あえて戦う姿だけでそんなメッセージを感じ取ってもらえばいいと思う。
デビュー戦でなくてもよかった?
ま、そうですけど。
ボクサーは要領のいい選択ではない。
以前も書いたことがあるが、要領のいい人は
マラソンや重量挙げやボクシングなんて割りに合わないことはしないと思うのだ。
自分を表現することが苦手な不器用人間だからこそ彼らは、
リングで殴り合い、重いモノを持ち挙げ、気の遠くなる距離を走るのだ。
世の中に対してモノを言うかわりに…。
それって清々しい。
締めの音楽はThe Bandの名曲「The Weight ザ・ウェイト」
歌詞はさっぱりわからない難解な歌だけれど。
キリスト教的な意味合いで
「(人生の)重荷、重圧 あるいは責任」みたいなことを歌っているのだろう。
2006年5月21日「ぷよねこ減量日記」
映画の終わり方も良かった。
早朝、河川敷のロードワーク、ボクサー二人が偶然出会う。
「あれ?小川さん、もしかして?」
「いや、そんなじゃないよ」
人生って…好きは苦悩の始まり、どーしようもないよねって感じてしまう。
それでも、人生は続く。
メインキャストの4人以外の役者もよかった。
特にジムの会長を演じた役者、落語の師匠みたいな風貌で、いかにもな。
あの会長を見ただけでも元はとれたような。(笑)
よこやまよしひろという役者。
主題歌を歌っている高原ピストルもスパーリング相手のジムのトレーナー?役で出演。
これまた、いかにもいそうな人の良さそうな男を演じてた。