ぷよねこ減量日記 since 2016

結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがいのないその時間 である。 (星野道夫)

【Easter eggs 2021】 断章 記憶力について # 2

ラジオ番組で聞いた話。

明石家さんまさんに「人生でいちばん大切なものは何ですか?」と聞くと、即答で、

  

「思い出 !」

 

 と答えたそうだ。

 

だよね。

そうだよね。

他にないよね。

そう思っててもなかなか言えない。

なんか今が充実してないみたいで、言うのが躊躇われる。

過去に生きてる人みたいだし、前向きじゃないって思われそうだし。

 

でも、思い出って今が作っていくものだから、考えてみたらそんな後ろ向きではないのだ。

 

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モノより思い出 2002年5月 六甲穂高湖にて

 

「思い出」が大切なものだという裏付けには事欠かない。

モノより思い出って日産自動車もコピーをCMで使ってたし。

あの頃からニッサンの業績はイマイチだったような(笑)

いやいや、林真理子の「下流の宴」で心に残った箇所がある。

何度かぷよねこ日記に引用した。

医者になるべく受験勉強をする主人公の珠緒が図書館で広瀬という老人と知り合う。

広瀬さんは「東大入試中止の年の一橋」に入り、すでに退職している。

関連会社の役員になることが決まっていたが権力争いに敗れ隠居の身となった。

家族からはいくじがないと呆れられ図書館に通いぼんやりして暮らしている。

珠緒が言う。

 「せっかくいい大学出たのに、なんかつまんないよね。
  結局はさ、人って年寄りになって、いつかは死ぬんだよね。

  そう考えるとさー。  

  東大とかヒトツバシ出てもさ、いつか人って、同じとこへ行くんだよねー」
  (中略)
  広瀬は苦笑いする。しかし、決して不愉快そうではない。
  珠緒の反応を面白がっているのだ。
 「だけど、僕はそうは思わないよ。絶対にさ」
 「あれー、そうなの」
 「だってそうだろ、タマちゃん。

  人間はさ、急に二十歳から、六十歳になるわけ じゃない。
  その四十年間でさ、いろんなことを経験するんだ。

  僕はね、世界中のいろんな所へ行ってさ、
  楽しい経験をいっぱいした。うんとうまいものを食べたし、酒も一杯飲んだ。
  あのね、どうせ惨めな老後が待ってるんだったら、何をしても同じだね、

  なんていうのはさ、
  まるっきり違うと思うよ」
 「そうかー、そうだよね」
 「そうだよ。この頃さ、タマちゃんみたいな若い人たちがさ、
  どうせ、人間行きつくとこは同じ、みたいなことを考えてるだろ。

  あれって嫌だね。
  僕はさ、思い出に生きるつもりはないけどさ、四十年はうんと楽しんだ。
  年とってからのことなんか考えなくてもいいんだ。
  二十代からの四十年のことを考えて人間って若い時に頑張るんだよ……。
  いや、なんか説教臭いこと言っちゃったね。
  せっかくのタマちゃんのコーヒーブレイクなのにさ」  (345-346頁)

そうなんだよな。
人は20歳からいきなり50歳にならない。
その間の30年をどう過ごすかが人生なのだ。

「僕はさ、思い出に生きるつもりはないけどさ、四十年はうんと楽しんだ。
 トシとってからのことなんか考えなくてもいいんだ。
 二十代からの四十年のことを考えて人間って若い時に頑張るんだよ……。」

当然、60歳から70歳だって同じだと思う。
死ぬまでの、最後の10年間、最後の5年間、最後の1年間をどう過ごすか?という話。

 

ほぼ座右の銘になっている写真家の星野道夫(1996年没)の言葉も思い出の大切さを説く。
『結果が思惑通りにならなくとも、そこで過ごした時間は確実に存在する。
そして、最後に意味を持つのは結果ではなく、過ぎていったかけがえのないその時間である』
人生において結果の持つ意味は意外に小さいのかもしれない。

 

人生でいちばん大切なものはなんですか?

胸を張って言おう! 思い出 と。

そして、ここから〇〇年も堂々と思い出を作ろう。

そして、思い出で酒が美味しく飲めるように記憶力は残しておこう。

記録力がなくなったら、つまり思い出が消えたら死ぬことだ。

 

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消えてしまった景色#1  かつて御前浜には夾竹桃のトンネルがあった。

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消えてしまった景色#2 かつて菊池貝類館があり、ニセアカシアの森があった。

 

記憶力についての話でしたね。(笑)

去年の秋くらいからヘビロテで聞いている曲が2つある。

下田逸郎「緑の匂い」踊ろうマチルダ「ギネスの泡とともに」

どちらも記憶や過去の出来ごとについて歌ったもので、僕はそう解釈している。

折に触れ口ずさもうとするけど歌詞が覚えられない。

すごく好きな歌で、歌詞も気に入ってるのに。

若い頃は覚えようとしなくても自然と歌えたのに。

 

 わすれてゆく そのたびに ひろがるのは ゆめごこち

 そよかぜが はこぶのは かすかな みどりのにおい

 

ここまでを覚えるのに2ヶ月くらいかかる。

すぐに忘れる。

歌いたいのに。

 

  あんなふうに こころ淡く ふるえたこと あったよ

  思い出した あなたへと 思い馳せた このわたし

  情熱の 脆さなんて 知らなかったあのころ

  鎮めていた わたしの狂気 気づくなんて なおさら

 

ここまで覚えるのは季節は変わっていそう。

でも、まあ、それでいいかと思う。

子どもの頃に聞いた歌謡曲はほとんど覚えてるのに、新しいものは定着しない。

もう容量が残ってないのだ。

 

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もう一曲は「ギネスの泡とともに」(by 踊ろうマチルダ)

スコッチとギネスビールがやたら飲みたくなる。

こっちのが歌詞は覚えやすい。

「緑の匂い」は観念的過ぎるのだ。

 

 スコッチで火を点けて燃え上がる血のワイン
 記憶を胃の中で飛ばしていた

 夜が明ける もし俺が死んだらパイプの聴こえる場所へ葬ってくれ
 夜が明ける 甘く優しい想い出はギネスの泡と共に消えていった

 

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