自分からは観ようと思わなかった映画を他薦によって観る。
ときに得がたい体験になったりするのが愉しい。
最近では眼鏡堂推薦の「ブックスマート」、だまされたと思って観た。
映画そのものより、その後のレビューは自らの鑑賞力を試されて、それなりに楽しめた。
木曜日に観た映画は「フェアウェル」という中国人家族を描いたアメリカ映画。
SPYBOYさんのブログ「特別な一日」に紹介されていて、予告動画を観て、観てみようと思った。
「スペシャルズ」「ジャズ喫茶ベイシー」「鵞鳥湖の夜」「クールの誕生」あたりと迷ったが、
この4作とも塚口サンサン劇場にかかる予定なので待機させることにした。
思えば、この「フェアウェル」もサンサンに当然かかるのだろうけど人生はタイミング、
近場で上映がちょうどいい時間に始まる。
フェアウェル@大阪ステーションシネマ
たまたまNHKプラスで北海道制作の馳星周のインタビュー番組を観た。
かつては新宿のノワールに棲息し、今は愛犬とともに夏は北海道、それ以外は軽井沢に暮らす作家。
インタビューの最後に言う。
「先のことばかり考えて生きるのって馬鹿馬鹿しいですよ」と。
この映画の予告編に祖母が主人公の孫に言うセリフと重なる。
Life is not just about what you do, It's more about how you do it
(人生で大切なのは何を成し遂げたということじゃなくて、どんなふうに生きたなのよ)
それはこの日記に何度も何度もしつこく(笑)書いている写真家の星野道夫さんの言葉と一致した。
「結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。
そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、
かけがえのないその時間である。」
一星野道夫
何度忘れてしまっても、そのたびに胸に刻みたい言葉。
いま終活だとかを考えたりしてるけど、残り時間を考えるときれいにしておきたいという気持ちも
大事だと思うけど、いま、生きているこの瞬間はこの先よりももっとかけがえのない時間だと思う。
それを再確認したいという気持ちで映画を観た。
号泣したいなどという不純な動機はない。(笑)
そして、クスリと笑ったけど泣くことはなかった。
泣くことはなかったけど観て良かった、いい映画でした。
中国で生まれアメリカで育ったルル・ワン監督が自身の体験に基づき描いた物語で、祖国を離れて海外で暮らしていた親戚一同が、余命わずかな祖母のために帰郷し、それぞれが祖母のためを思い、時にぶつかり、励まし合うながら過ごす日々を描いたハートウォーミングドラマ。
ニューヨークに暮らすビリーは、中国にいる祖母が末期がんで余命数週間と知らされる。この事態に、アメリカや日本など世界各国で暮らしていた家族が帰郷し、親戚一同が久しぶりに顔をそろえる。アメリカ育ちのビリーは、大好きなおばあちゃんが残り少ない人生を後悔なく過ごせるよう、病状を本人に打ち明けるべきだと主張するが、中国に住む大叔母がビリーの意見に反対する。中国では助からない病は本人に告げないという伝統があり、ほかの親戚も大叔母に賛同。ビリーと意見が分かれてしまうが……。
「ムーンライト」「レディ・バード」などを手掛けるスタジオ「A24」の新作で、中国で生まれアメリカで育った気鋭の新人監督ルル・ワンが自身の実体験を映画化した
2019年製作/100分/G/アメリカ 原題:The Farewell 配給:ショウゲート
冒頭に「これは本当の嘘を基にした実話」とある。
主人公が登場、僕は知らない女優。
美人ではない。
じゃないけど存在感はある。
リアルだ。
でも、中国人の主演が美人じゃない映画というのは初めてかも。
どちらかというと日本でいえば女芸人的な風貌。
この風貌でこの映画の主演だということはコイツ只者ではないなと思った。
映画を見終わって調べたら、アメリカ生まれの中国×韓国のハイブリッドで、
ラッパーで、脚本家で、女優だというマルチな才能を持った人でした。
オークワフィナという女優。
ラップの映像を見て江南スタイルを思い出してしまった。
普通の家族を描いた映画だ。
2020年のコロナ後がどうなったかわからないけど、少なくとも2019年の家族。
アメリカやイギリスやドイツや日本で仕事を見つけて家族で暮らしてる中国出身の一家が、
故郷の家族に会うという、何千何万という人々にとって当たり前の日常だと思う。
でも、実際に映画や小説に描かれているところは見たことがなかった。
いろいろと発見したり、驚いたり、納得したり、笑ったりした。
たとえばがん告知の話。
イギリスで学んだ担当医が言う。
「中国では告知はしません」とアメリカ生まれの主人公に言う。
その理由は日本に住む叔父が話す。
「中国では個人の命は全体の一部だ。家族で重荷を引き受ける」
がん告知しないわけは…「人はがんでなく恐怖で殺される」
あるいは「残り少ない人生を何も落ちこんで過ごさせる必要はない」と言う。
思えば、日本でも数十年前はがん告知は一般的ではなかった。
いつのまにか知らないうちに本人への告知がなされるようになった気がする。
癌=死、昔は不治の病だった。
今では治療法が増えて治る可能性もある病気になったからだろうか。
個人的には最初に書いたことで心動かされたが、社会的にはいろいろと考えさせられた。
このレビュー記事が一番当を得ていたように思う。
日本在住の中国人コラムニストが書いてレビュー。
映画の中の様々な対話が問題点をあぶり出している。
主人公のビリーと日本に住む叔父、ビリーと祖母ナイナイ、息子二人、ビリーと母…。
映画の中にさまざまな中国の風習が描かれている。
泣き女の存在、墓の前で何度もお辞儀をする、結婚式の前の軍隊のような挨拶…
それにも中国人社会で批判の声が上がっているらしい。
日本でも日本を描いた映画で似たようなことがあるなあと思い出す。
「アメリカでは、何年かかったら100万ドルを稼げる?」とおばさんに聞かれた主人公ビリー(オークワフィナ)は「結構長い歳月がかかる」と回答。続けて、おばさんは「中国ならすぐでもできる!」と自信満々で言い放ちますが、ここからの展開が面白い。「中国ではそんなに稼げるのに、なぜ自分の息子をアメリカに留学させたいの?」とビリーの母がおばさんに反撃するんです。このシーンは、まさに“今の中国”をリアルに描いています。経済成長後の自信、メンツを重んじる中国人の伝統的価値観、裕福になった後の戸惑いがひしひしと伝わってきます。
いまを最も表現しているエピソードでした。
普通の家を描いた中国映画。
伊丹十三の「お葬式」のテイストがちょっと、
是枝裕和の「歩いても歩いても」「海よりもまだ深く」のテイストが半分くらい。
そんなちょっとコメディも入った映画でした。
ちなみにビリーのお父さんがアメリカの食卓で言うジョークですが…。
アメリカでは昔からかなり定番となってるジョークで、昔「カプリコン1」という映画で、
国家に追われて絶体絶命の男が独り言で言うシーンがあったのを思い出した。
映画の中で日本人役で出ている水原碧衣(あおい)という女優さんを調べてみた。
京大法学部出身! 出身地の三重県桑名の広報記事になっていた。
外国文化に馴染めない、いかにもいそうな日本人をうまく演じていたと感心した。
あ、そうそう、もうひとつ個人的に挿入曲がささりまくりました。
途中の歌曲「カロミオベン」、これは至って個人的な思い出につながる。
クライマックスに流れたレナード・コーエン(またしてもコーエン!)の Come Healing、
「おいで、治してあげる」って意味だろうか、相変わらず難解な歌詞でした。
Cold Play のFix You はもしかしてこの曲にインスパイアされてたのかなと思うほど。
エンドロールの2曲も滲みた。
北京語(?)なのかイタリア語(?)で歌うニルソンの Without You とスキャットの「悲愴」。
いい選曲だなと思う。
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