ぷよねこ減量日記 since 2016

結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがいのないその時間 である。 (星野道夫)

原田マハ「 おいしい水 Água de Beber 」(岩波書店) 読後メモ

 

その街の名前は、神戸。 美しい港町だ。  ー  原田マハ「おいしい水」

 

原田マハ「おいしい水」読了。

わずか85ページの短編小説、フォトブックでもあるので実質は60ページにも満たない。

かつてあった美しい港街 神戸へのオマージュともいえる物語。

時代は震災前、1980年代後半から1990年代前半か…。

元町の「エビアン」という実在の喫茶店、「STILL&MOTION」という架空の雑貨ショップ、

北野の異人館街、神戸の海。

主人公は19歳 。

関西学院大学(記述はなく推測)の大学生で、岡山出身で西宮の女子寮に住んでいる。

このあたりは原田マハ本人がモデルかもしれない。

元町「エビアン」で見たカメラマンらしき謎の男に一目惚れすることから物語が始まる。

 

大好きな街が,通りが,喫茶店があった.大好きな人がいた.携帯電話もメールもないあの頃,会いたければ,待つほかなかった.知りたければ,傷つくほかなかった.私は何ひとつ,あなたのことを知らなかった.あの街で,大切なものを失った──.80年代の神戸を舞台に,若い恋の”決定的瞬間”をたどったラブストーリー (岩波書店の紹介文)

 

あずき色の阪急電車、西宮北口駅、三宮あたりの当時の描写から引きこまれる。

レンタルレコードショップなるものも懐かしい。

当時はレコード盤とCDが共存していた。

僕が金沢から神戸に出てきた時代の印象と重なる。

そうか、小説はあの頃のことだ  、そう思うと古い日記を読むようでひたすら懐かしい。

僕は二十代前半、阪急六甲駅に近い高羽町のアパートに住んでいた。

放送局で撮影助手のアルバイトをしていた。

毎朝、スポルティーフというスポーツバイクで六甲から新神戸駅まで往復するのが日課だった。

山麓線、野崎通のケヤキ並木が美しく、朝の空気が気持ちよかった。

かなりのアップダウンがある10キロ以上の往復コース。

若さというのは今思えばギフト(天恵)なのだと思う。

 

小説の主人公たちは僕と同時代を生きた同世代なのだ…。

そう思うと、安西や、べべが、90年代の神戸が、急に愛おしくなった。

 

タイトルはボサノバの曲 Água de Beber(おいしい水)

彼女(安西)がバイトする雑貨店の主人ナツコさんが店で流すボサノバの名曲。

アントニオ・カルロス・ジョビンが作り、アストラッド・ジルベルトが歌う。

聞けばすぐに分かる。

 

    


 愛知県の田舎の高校生だったら、金沢の大学生だったら、

この小説を読んで、神戸に憧れただろうな、と想像する。

きっと真っ先に「エビアン」へ生き、奥の席に座るだろう。

でも、僕は「エビアン」を知っている。

一人で元町へ行ったときには、カウンターの端が空いていたら必ず入る。

そして、サイフォンで淹れた熱いコーヒーと自家製のプリンかシフォンケーキを注文する。

そう「エビアン」の珈琲はどの店よりも熱いのだ。

 

その席が空いてなければ、今なら同じビルの地下にある「ジャムジャム」へ行き、大音量でジャズを聴く。

三宮の高架下、長野屋でだしの旨いカレー蕎麦を食す。

好日山荘、ジュンク堂、ユニクロなどに寄りながら元町へ。

エビアンでサイフォンの珈琲と焼プリンと決めていたが、

カウンターの端の席に誰かが座っていた。

同じビルの地下にあるジャズ喫茶へ。

大音量でピアノトリオを聴く。 (2023年10月23日の日記より)

 

 

テーブル席に座ったことはほどんどない。

「ママさんが無愛想にコーヒーを運んでくる」と 小説に “ 無愛想 ” が何度かリピートされる。

ちょっと笑ってしまう。

その通りの印象なのだが、別に悪い気分になるわけでない。

それも含めて「エビアン」なのだと思う。

 

小説のモチーフとしてバイトする雑貨店で売っている写真集がある。

パリで男女がキスする有名な一枚。

そういえば9月に行った恵比寿の東京都写真美術館の壁にこの写真があったのを思い出す。

 

ロベール・ドアノー「パリ市庁舎前のキス」

 

この本に挿入されている写真がある。

伊庭靖子とクレジットがある。

待てよ、「伊庭靖子 画」とある。

これは写真ではなく、絵なのか。

 

 

よく見ると絵だ! これは「エビアン」の椅子。

 

初期はスーパーリアリズム、最近では主に器、寝具をモチーフとする。

…と紹介文にある。

静謐な画風。

絵から SILENCE(静けさ)が湧き出ている。

展覧会があれば行ってみたい。

 

bijutsutecho.com

     

 

 

いろいろな思い出、新しい出会いがあった原田マハ「おいしい水}(岩波書店)という本。

懐かしくて、チャーミングな物語でした。

紹介してくれた芝田さんに感謝します。

 

 

 

 

ところで…

「おいしい水」を映画化、ドラマ化したらキャストはどうなるかな。

途中からヒロインの安西は脳内で彼女をキャスティングしていた。

 

鳴海 唯 西宮市出身です。

 

何年か前にPopeyeのガールフレンド企画の表紙を思い出した。

描写にコムデギャルソンのPコートを着ているとあった。

この表紙写真はダウンジャケットだけど、Pコートは彼女に似合いそうだと思った。

 

安西は彼女をイメージして読んだ。

 

最近では村上春樹の「地震のあとで」に出演していた。

 

謎の男 ベベツ は誰だろう?

井浦新? 松坂桃李? 松村北斗?

なかなかキャスト出来なかったけど、ちょっとエキセントリックなとこも含め、彼かな。

 

東出昌大、ちょっとイヤなエロさもあって脳内キャスティングした。

 

出勤時間よりも一時間早く、神戸・三宮駅に到着する。そこから元町駅近くの、その店まで歩いていく。べべの姿を見たくて、私は「エビアン」に立ち寄った。「エビアン」は、駅前の交差点から元町の商店街に向かって入っていく路地の途中にあった。しゃれたところがどこにもない、けれど安くて格別おいしいコーヒーが飲めるこの店を教えてくれたのも、ナツコさんだった。(原田マハ「おいしい水」より)

 

店の奥に座っているのは東出昌大と鳴海唯。

「エビアン」次に行くのはいつだろう?