いつもよりちょっと出勤時間が早い木曜日……がここ数年の常だけど…きょうは焦った。
朝、まだ布団で横になっていたとき、ヒロが言う。
「ねえ、まだ起きなくて大丈夫?」
あわてて飛び起きる。
すでに出発予定の時間だ。
顔を洗って着替えをする。
なんで起きられなかったのだろう。
「朝ごはんどうする?」
そんなもん食べてる時間ないよ。
と口にして、もういちど時計を見る。
7時40分……あれ?
出発予定は何時だっけ?
「8時半に出るって言ってなかったっけ?」とヒロ、
はい、そうです。
まだ小一時間ある。
なんだ。
早とちりか。
老化か。
若いときだって同じようなことはあった。
いまは老化進行として認知されてしまう。
まあ、とにかく良かったわ。
クラムチャウダーとパンを少し食べて出る。
幸い雨は降っていない。
10時からナレーション録り。
今日はアナウンサーに疑似実況をつけてもらう作業がある。
収録後はネット記事をアップする作業をデスクで続ける。
朝のテレビモニターには菅官房長官の顔がずらりと並ぶ。
総裁選びは直接選挙じゃないけどメディアが後継を決めているようなイヤな気分。
これってもしかして忖度ってやつ?
前政権を継続すべきだなんて誰が決めた?
MOVIXあまがさきで「ソワレ」を見ようと思ってたけど上映時間を見過ごす。
3時近くになって早退、堂島のインディアンカレーで遅めのランチ。
西宮駅からの帰りに43号線沿いのカフェに寄る。
読みかけの本をきょうはカフェで読もう。
エチオピアをフレンチプレスで絞った珈琲とこの店のFacebookで見たジェラートサンド。
コロナ以前はいつもガラガラだった店が今日はそこそこ入っている。
密ではないけど。
眼鏡堂推奨の小説、さっそく図書館に予約して、翌日借りる。
青山文平「遠縁の女」(文藝春秋)、時代小説であるらしい。
3編の中編からなる小説集。
『機織る武家』血の繋がらない三人が身を寄せ合う、二十俵二人扶持の武家一家。生活のため、後妻の縫は機織りを再開する。『沼尻新田』新田開発を持ちかけられ当惑する三十二歳当主。実地検分に訪れた現地のクロマツ林で、美しい女に出会う。『遠縁の女』寛政の世、浮世離れした剣の修行に出た武家。五年ぶりに帰国した彼を待っていたのは、女の仕掛ける謎―。直木賞受賞作「つまをめとらば」に続く清冽な世界。傑作武家小説集。
(BOOKデータベースより)
冒頭の「機織る武家」、まずその文体に はて?と思う。
まるで時代小説らしからぬ文体なのだ。
思えば、わたしたちはいかにも座りの悪い夫婦だった。
夫の武井由人は入り婿だった。そして、わたしは由人の妻だった。
と言えば、わたしが武井の家の、家付き娘のようだが、そうではない。
このあと主人公の縫(ぬい)の悲惨な境遇が語られる。
入り婿の主人と本家の母に毒づかれ、貧しい実家は家族もろとも水害で死に絶える。
居場所を失った二十四歳の女。
その語り口は現代のワーキングプアの女性の独り語りを読んでいるようだった。
暗澹とした導入であるが、あることをきっかけに光が射す。
これまであまり読んだことのない味の小説だった。
カフェでは読みかけの表題作「遠縁の女」を読んだ。
一気読み。
この著者はどうしてこんな物語と文章を紡ぐことが出来るのか。
武者修行で今まで作り上げた描いた世界、それはそれで十分に読み応えがあるのだが、
そこまで積み重ねたものを惜しげも無く捨て去る。
思わず、もったいないことを…! と思ってしまった。
武者修行の集大成であったはずの仕合いをも見届けたかった。
読み手はその後の垂直の滝のごとき展開に呆気にとられ、主人公と同じくある女に翻弄される。
未完に終わった剣の物語が純で気高くあればあるほど女の魔が際立つ。
青山文平、手練れだ。
帰宅して仮眠する。
木曜日は動き出しが早いだけに眠くなるのも早い。
居眠りしているとヒロに起こされる。
「西の空、見てごらん」
残照が雲を染めてターナーの絵のようだった。
晩酌をする。
9月は3日連続飲酒で始まる。