2020/08/15 Sat. #5『日本のいちばん長い日』

実は観てない映画10本 の5本目です。

岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』(1967年)2時間37分 

 

戦局が次第に不利になってきた日本に無条件降伏を求める米、英、中のポツダム宣言が、海外放送で傍受されたのは昭和二十年七月二十六日午前六時である。直ちに翌二十七日、鈴木総理大臣官邸で緊急閣議が開かれた。その後、八月六日広島に原爆が投下され、八日にはソ連が参戦、日本の敗北は決定的な様相を呈していたのであった。第一回御前会議において天皇陛下が戦争終結を望まれ八月十日、政府は天皇の大権に変更がないことを条件にポツダム宣言を受諾する旨、中立国のスイス、スウェーデンの日本公使に通知した。十二日、連合国側からの回答があったが、天皇の地位に関しての条項にSubject toとあるのが隷属か制限の意味かで、政府首脳の間に大論争が行なわれ、阿南陸相はこの文章ではポツダム宣言は受諾出来ないと反対した。しかし、八月十四日の特別御前会議で、天皇は終戦を決意され、ここに正式にポツダム宣言受諾が決ったのであった。この間、終戦反対派の陸軍青年将校はクーデター計画を練っていたが、阿南陸相は御聖断が下った上は、それに従うべきであると悟した。一方、終戦処理のために十四日午後一時、閣議が開かれ、陛下の終戦詔書を宮内省で録音し八月十五日正午、全国にラジオ放送することが決った。午後十一時五十分、天皇陛下の録音は宮内省二階の御政務室で行われた。同じ頃、クーデター計画を押し進めている畑中少佐は近衛師団長森中将を説得していた。一方厚木三〇二航空隊の司令小薗海軍大佐は徹底抗戦を部下に命令し、また東京警備軍横浜警備隊長佐々木大尉も一個大隊を動かして首相や重臣を襲って降伏を阻止しようと計画していた。降伏に反対するグループは、バラバラに動いていた。そんな騒ぎの中で八月十五日午前零時、房総沖の敵機動部隊に攻撃を加えた中野少将は、少しも終戦を知らなかった。その頃、畑中少佐は蹶起に反対した森師団長を射殺、玉音放送を中止すべく、その録音盤を奪おうと捜査を開始し、宮城の占領と東京放送の占拠を企てたのである。しかし東部軍司令官田中大将は、このクーデターの鎮圧にあたり、畑中の意図を挫いたのであった。玉音放送の録音盤は徳川侍従の手によって皇后官事務官の軽金庫に納められていた。午前四時半、佐々木大尉の率いる一隊は首相官邸、平沼枢密院議長邸を襲って放火し、五時半には阿南陸相が遺書を残して壮烈な自刃を遂げるなど、終戦を迎えた日本は、歴史の転換に伴う数々の出来事の渦中にあったのである。そして、日本の敗戦を告げる玉音放送の予告が電波に乗ったのは、八月十五日午前七時二十一分のことであった。

 

観るなら今日です。

75年前の今日、まだ一世紀前ではない。

この国で起きたことの実録映画。

2015年の原田真人版は3年前に観ている。

この機会に元祖 岡本喜八版を観ておこう。

1967年、僕は小学5年生、サッカーに夢中になっていた時代。

小学生はこの映画には興味を持たないだろうな。

でも、このタイトルの映画がかかっていたことは憶えている。

日本のいちばん長い日って何のことだろう? 幼稚な小学生には想像も出来なかった。

齢六十を超えてそのときの小学生が 日本のいちばん長い日 を知ることとなる。

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1967年、夏休みのお盆映画として東宝オールキャストで公開された。


1967年版と2015年版を比較しながら観ようと思って見始めたのだが、

映画が始めるとあっという間に1945年の8月14日にタイムワープしていた。

2015年版は見たのだが細かい展開は忘れていた。

主要なキャストは阿南陸相は三船敏郎と役所広司、鈴木首相は笠智衆と山崎努、

畑中少尉は黒沢年雄と松坂桃李、ファナティックな佐々木隊長は天本英世と松山ケンイチ。

2015年版では気がつかなかったが日本のいちばん長い日は真夏だ。

モノクロの1967年版で登場人物たちは肌に汗を滲ませて暑そうだ。

エアコンもない時代、軍服やスーツ姿ではさぞや汗をかいただろう。

 

この歴史的事実への理解度が深まってから見ているのと初見とではハンディがあるが、

総合的に見て1967年岡本喜八版に軍配を上げたい。

ただキャストとしては青年将校畑中少尉を演じた松坂桃李は黒沢年雄に唯一勝っていると思った。

町山智浩との対談集「日本映画講義 戦争・パニック映画編」でも春日太一がそう話している。

 終始オーバーアクトで暑苦しい黒沢年雄より、じわじわと狂気が沸き立つ松坂桃李に軍配。

でも、1967年版に松坂を放りこむとどうだろうか? とは思う。

 

「秋刀魚の味」「七人の侍」を観た直後なのでやはりキャストを面白く観られた。

町山智浩が最高の棒読みと評した笠智衆の鈴木貫太郞首相。

あの奔放な菊千代が重厚な悩める陸軍大臣を演じていた。

剣の達人宮口精二が理知的な外務大臣を演じ、百姓の土屋嘉男が東部軍の高級参謀を演じていた。

官兵衛 志村喬は情報大臣、ナチスでいえばゲッペルス、なのだが、好人物然としていた。

対談本によると情報相は当時朝日新聞の社長とNHKの会長でもあったと。

素晴らしかったのは横浜警備隊の佐々木隊長を演じた天本英世。

この人は筋金入りの反戦の人なのだが、戦争終結を決めた鈴木首相や官僚を皆殺しにすると

一般人たちで構成される首都守備隊で首相官邸や私邸を次々と襲う。

何を言ってるかわからないような狂信的アジテートが凄まじい。

 

静かにしみたベストシーンは後半の笠智衆と三船敏郎の最後の会話。

小津組と黒澤組の二大スター競演。

 

ポツダム宣言受諾の手続きがすべて終了し、官邸の一室で休憩する鈴木首相(笠)、

そこに阿南陸軍大臣(三船)が訪ねてくる。

自分は陸軍を代表する立場上、首相を困らせるような発言もずいぶんしたが、

悪意があったわけではないのでお許しください。

そして、葉巻の箱を取り出して

「これは南方の前線部隊が送ってくれたものですが、自分は嗜みませんので、総理に」と差し出し、

一礼して部屋を出て行く。

後ろ姿を見送った鈴木首相はポツリと小声で言う。

「阿南君はいとまごいに来てくれたんだね・・・」

 

※いとまごい 

永遠の別れからちょっとお休みを、という時まで。退職届けの意味も、休暇願いの意味もあるのが「いとまごい」この場合は自死を決意し、周囲もそれを知っていた阿南陸相が別れを告げたという意。

 

2015年版にもまったく同じシーンがある。

演じたのは山崎努と役所広司。

この会話は史実かどうかはわからないが、脚本家 橋本忍 の真骨頂だろう。

外せない場面だった。