朝イチでナレーション収録。
初めての新社屋のMAルームだった。
4階だと聞いていた。
ワンフロアがやたら広いのでうろうろと迷った。
大阪城公園に面した新社屋の眺めは最高だ。
いまはそのことに感動しているけど、こういうのはやがて慣れて感動は薄れる。
60年を生きてきた僕はわかる。
そんなつまらない人間になるために経験をつんだかと思うとかなしい。
順番にこの世から消えていく列に並んでいるのだ。
ナレーターのばんちゃんと8階にある食堂へ行ってみた。
素晴らしい!
広くてメニューも豊富で、しかも安い。
キャッシュレスでnanakoカードとICOCAが使える。
食べなかったけど感動した。
なんやねん。
ばんちゃんが「わたしの星」に感動したという。
なにそれ?
だからスポーツ関係者は文化的素養に欠けるのだ。
なにそれ?
僕も知らなかったけど…。
ポスターを見たら思い出した。
ドラマだと思っていたけっど演劇だそうな。
へえ、そうなんだ。
一階に下りたらそこにあるホールでやってた。
顔見知りの人が受付にいた。
いつまでやってるんですか?
明日までです。
当日券あります?
だいじょうぶですよ。
あしたの13時が最終公演か。
見てみようかな。
環状線と地下鉄を乗り継いで朝潮橋の大阪プールへ行く。
森ノ宮経由ではなくぐるっと大阪周りで弁天町へ。
そこから一駅で朝潮橋、というルート。
7月にこのJOCジュニアオリンピックカップの予選を兼ねた関西ジュニアを見に来た。
きょうは全国大会だ。
オリンピックが内定している荒井祭里選手(18)の撮影。
飛び込み競技って実に繊細だと感じた。
ゴルフのスイングやパットに似ている。
いやそれ以上に一点集中だ。
スキーのジャンプに近いのかな。
ちょっとした心や身体の“ゆれ”が何倍も増幅されて演技に表れる。
練習で出来てることを試合で5本、6本と再現することは容易ではない。
当日のニュース送りもないので朝潮橋で仕事は終了。
Y田正男氏が警備員として働いているスーパーが近い。
飲む約束をしてたので顔を出す。
弁天町にも新しい店はいっぱいあるけど老舗が落ち着く。
去年の11月にマサオと来た弁天町の大バコ居酒屋「なかもと」へ。
瓶ビール大瓶とハートランド中瓶を二人で、蕎麦焼酎ロックと、冷酒300mlを二人で半分こ。
それだけ飲むともう飲めない。
十分に酔った感覚。
弱くなったなあ。
ま、いいんだけど、肝臓の機能は低下してるんだろうな。
これ以上飲んでも美味しくないし。
マサオは「なかもと」を出て二軒目に行こうとして界わいを歩く。
立ち吞み屋もあったがやめとこう。
セブンイレブンで熱いコーヒーにする。
マサオは20%のカップ焼酎を買った。
駅前でちょっと待てと言う。
息子のD介に電話する。
出ない。
もういいよ、と思う。
しつこく別のところに電話して呼び出す。
D介は20歳になったばかりで9月からピアノ修行でイギリスの大学へ行く。
察するにマサオの電話には出たくないんだろうなと意地悪なことを想像する。
本人と少し話す。
ひさしぶり、憶えてる?
はい、コンサートでお会いしましたよね、ありがとうございました。
え? 会ってないよ。
僕は実際には会ってないのだ。それは別の人じゃない?
なんて会話がある。
あんまり飲まさないで下さいよ、という。
そうだね。
でも、ちょっとカチンときた。
その理由はいくつかある。
でも、言わないでおく。
イギリスへ4年間行くという。
もう日本へ帰る気はないという。
いいだろう。
20歳でそう決意するのはありだと思う。
でも、その言葉に棘のようなものを感じてしまう。
あのなあ、と心ですごむ。
おまえのオヤジは酔っ払いのろくでなしかもしれないけどなあ。
いつもは自分が咎めるのにD介の言動にムカついている自分がいた。
息子のために60近くなる今も警備員として毎日働き、
少なからず留学資金として分不相応の借金をしてるのを知っている。
僕も彼と同じ頃、家を出たかった。
両親は高校生の時に離婚していた。
D介の両親の仲は聞くところでは破綻している。
居心地がいいとはいえないだろうし、彼なりに傷ついたことだろう。
でも、だ。
そんな親の稼いだ(借金した)金で留学するのだ。
日本に帰る気はないと言うなら二度と親に頼るなよ。
なんでマサオが電話して僕と話をさせたかったのか。
そのちょっと寂しい理由がわかる。
わかるだけに…嫌な気持ちになる。
D介と話なんてしたくなかった。