団地に住む両親、姉の佳奈、そしてぼく(進)。
テレビでは台風15号の接近を知らせている。
ぼくはプールに出かけた。そのプールで1人の泳ぎ手にひきつけられた。
彼の泳ぎ方! なんておかしな格好だ。クロール、バタフライ、犬かき、それらがごっちゃになった泳ぎっぷりなんだ。
彼が泳ぎながら少しずつぼくのほうにやってきた。
そしてぼくは気づいた。
彼は右手一本で泳いでる。左手がない。
彼(浅尾広一)の家のピアノで、右手一本で引いてくれた「サマータイム」、ジャズのスタンダード・ナンバーだ。
胸にしみる思いがした。
聞いたことがないほど悲しくてきれいなメロディだった。
佐藤多佳子「サマータイム」